独語44 馬⑤ 外乗(遠乗り)、3日間キャンプ

御殿場市の板妻で、Oさんが馬を十数頭飼い、貸し馬屋を営んでいた。当時、私と仲間は、ほぼ毎月5~8頭の馬を借りて、富士山の裾野の広大な草原で、忠ちゃん牧場や日本ランド近くまでの外乗(遠乗り)を楽しんでいた。時には、初心者を誘って、広場で数十人がバーベキューをしながら交替で乗馬体験してもらった。
今から四十数年前の夏、我々乗馬仲間の5人は、5頭の馬を借り、馬の飼料及びキャンプ用品を鞍に括り付け、3日間の旅に喜び勇んで意気揚々と出発した。
初日は、板妻を出発して東富士演習場を横切るように通過し、富士山の東側の峠(車は通れない)に向かった。馬に跨っているのが辛くなったり、馬がバテ気味になったりで、時々下馬して引馬をした。峠を越え北富士演習場を通って山中湖村に到着した際、地元の人から、近くに東大の馬場と厩舎があると聞いた。今は誰もいないので、そこを使わせてもらったらいいのではとの助言で、馬房をお借りして馬装を解いて馬を入れた。近くで草刈りをして、持参した飼料と一緒に食べさせた。我々は、野宿覚悟だったが、近くにキャンプ用キャビンがあったので、そこを借りて寝泊まりすることにした。予想外で夢のような展開で、全員大満足。
2日目は、人馬とも疲れ気味だったので、東大の馬場で騎乗し軽めの運動だけにし、せっせと草刈りをして、馬にたらふく食べさせた。午後には小雨が降ってきたので、完全休養日にしてのんびり過ごした。夜中から雨足が激しくなったので、人馬共々降雨を避けることができたので安堵した。
3日目は朝から土砂降りだったが、馬に飼い葉を与え、馬房をきれいにしてから、ビニール合羽で雨対策をして帰路についた。来た道をたどるのだが、北富士演習場を抜けて峠に向かう行程は富士山に向かって登るが、昨日の休養と飼い葉をたらふく食べさせたからか、馬たちは元気いっぱい。土砂降りがひどいため、馬が一歩踏み出すごとに足元の砂が流れ、そのすごさに驚いた。峠を越えてしばらくしたら、小降りになり、砂が流れなくなった。さらに、長い下りの行進中にやっと雨が止み、お天道様が顔を出したら、馬の毛艶がピカピカになっていた。我々は、ビニール合羽のおかげで、雨に当たった如く汗まみれでビショビショになってしまった。この行軍如き遠乗りで、落鉄もなく、跛行する馬もなく、全馬と全員が無事に帰着したことに安堵し、馬に感謝しながら馬装を解き、一休みしてから帰路についた。貴重な体験できたことに全員大満足。
家に帰ってからテレビを見たら、狛江市の多摩川の土手が決壊し、多数の家が次々に流されている衝撃的な映像で、びっくり仰天たまげてしまった。昨夜からの激しい土砂降りだったので、増水に納得できるが、被災した方々が気の毒で仕方がなかった。そんな中で、馬に乗っていたことに、忸怩たる思いがした、ことを思い出した。
今になって振り返ると、たった3日間の外乗(遠乗り)だったが、すごいことをやったものだと思う。馬を貸してくれたOさんと同行してくれた仲間、そして、東大の厩舎と馬場を借用させていただいたことに大感謝。