独語43 人と動物との絆(Human Animal Bond)

人と動物との絆(Human Animal Bond:HAB)は、人と動物の双方にとって、心身の健康と生活の質(QOL)の増進に役立つものであり、動物福祉・愛護(Animal Welfare)動物の権利(Animal Right)とは異なっている。
世界中、人住むところにペットあり。今や、ペットは、コンパニオンアニマル(Companion Animal)とも称され、人の伴侶、家族の一員として大切にされ一緒に暮らしている。当然なことに、動物福祉に配慮したものでなければならないことは、言うまでもない。
人と動物との相互作用(Human Animal Interaction)について研究され、動物介在活動(Animal Assisted Activity:AAA)、動物介在療法(Animal Assisted Therapy:AAT)、動物介在教育(Animal Assisted Education:AAE)の効用も理解されてきた。これらの研究発表及び議論する場として、「人と動物との相互作用に関する国際連合International Association of Human-Animal Interaction Organization:IAHAIO)がある。私は、モナコ、ジュネーブ、モントリオール、リオデジャネイロの各大会及び東京大会に参加した。
HABの理念を知った我々〔日本動物病院(福祉)協会:Japanese Animal Hospital Association:JAHA)は、広く社会に広めるために、CAPP(Companion Animal Partnership Program)を開始し、1986年5月、横浜市の特別養護老人ホームの「さくら苑」にAAAの訪問活動を最初に行った。それ以降、他の施設やイベントなどにどんどん広がった。
このさくら苑には、私とスタッフ及び家族が、飼育していたグレートデンとロングヘアのチワワ2匹を伴って訪問し、その後猫も同伴させた。JAHAは、さくら苑にラブラドール・リトリバーの子犬(マリ)を贈呈した。マリは、成長につれ苑内を走り回ったり、飛びついたり、いたずらが激しくなり、ぐいぐい引っ張る、はしゃぎ犬になったので、檻がある犬小屋に隔離された。それ故、私は、マリに基本的な服従(しつけ)訓練(Obedience Dog Training)を行い、少し時間がかかったが施設内を自由に歩き回れるようになった。その後、同種の盲導犬になれなかったヘレンが、JAHAの紹介でやって来て、2頭が仲良く施設内を自由に歩き回り、お年寄りと施設職員たちから可愛がられた。
マリが母親になった際には、犬嫌いや犬に興味がなかったお年寄りを含む多くの人が、子犬の成長や仕草にを嬉しそうに、楽しそうに見て喜びの声を上げ、子犬をいとおしそうに触り撫で、マリには褒めたり励ましの声掛けをした。このことから、犬嫌いであっても、基本的には犬を受け入れる素地があると認識され、素晴らしい体験が人の気持ちを変えるきっかけになると確信した。
次第に、あちこちの老人ホーム、障碍者施設、教育施設などからCAPP訪問活動の要請が寄せられ、多くの穏やかで人好きな犬(猫)と飼い主ボランティアの協力があってこそ、AAA、AAT、AAEが円滑に実施されることが明白で、犬のしつけが重要であり、その必要性が生じた。
「犬は、しつけられて犬になる」しつけの重要性からJAHAは、犬の飼い主にアピールするため、全米ドッグ・トレーニング・インストラクター協会会長だったテリー・ライアンさんの講演活動を各地で開催した。講演内容は、誉めて躾ける陽性強化法による犬の教育方法で、飼い主自身が行えるを教えるものでした。私は、この講演活動で、愛犬の柴犬とさくら苑のマリとヘレンを連れて、デモンストレーションをした。その数年後、JAHAは、テリー・ライアンさんによる「家庭犬のためのしつけインストラクター養成講座」をスタートさせ、毎年講座が開催され、多くのインストラクターが誕生した。
私は、1990年から「愛犬のしつけ方教室」を院内で開催し、犬の飼い主に陽性強化法によるドッグ・トレーニング方法を教え、飼い主と犬がより良い信頼関係をもって強固な絆を築いてもらうことを目的に行った。国内初だったため全国紙(朝日新聞)で紹介され、大阪や仙台など遠方から教室に通ってくださった。当時は、シベリアン・ハスキー、ラブラドール・リトリバー、ゴールデン・リトリバーなどが多く飼われたので、教室は大盛況で、大変感謝された。セントバーナード、シェパード、各種の日本犬など様々な犬種も参加してくれた。犬の訓練士でなくとも、飼い主自身及び小学4年生以上から高校生のジュニア世代(3年間、夏休み早朝レッスン)でも、犬のしつけ訓練が上手に確実にできることを証明できた。
CAPP活動は、老人ホーム、障碍者施設、幼稚園、小学校、病院などのほか、ねんりんピック、地域のイベントなどがあり、教室卒業犬と飼い主さんたちが、積極的に参加してくださった、それ故、AAA、AAT、AAEが円滑に問題なく行うことができました。この他、しながわ夢桟橋というイベントで、大崎発=大崎着の山手線一周イベント列車の車内に多種の犬が十数頭と飼い主さんたちがブラスバンドやイベント関係者と一緒に乗車し、にぎやかな車内を移動し乗客たちと触れ合いを行ったこと、また、京王プラザホテルの最上階のレストランに、多くの犬と飼い主さんたちがフロントを通過し、エレベーターに乗って行き、会食をしたなど色々チャレンジした。このような活動は、動物、飼い主双方が楽しい雰囲気がなければ継続できないことである。
ペットと飼い主家族が、互いに信頼し合い、切っても切れない強い絆で結ばれることは、双方の健康や生活の質(QOL)の向上に資することになり、幸せを享受できます。