独語24 ニワトリの福祉と感染症

令和2年は、鶏にとって悲劇的な感染症である鳥インフルエンザが、11月に香川県で発生し瞬く間に近畿以西に広がり、12月25日には千葉県の大規模養鶏場(116万羽飼養)で確認された。全国で、12月末で464万羽が殺処分され、この年末年始にはこの千葉県の養鶏場で殺処分が行われている。数年ごとに鳥インフルエンザが発生するたびに大量殺処分が行われ、その殆どが地中に埋められる(埋却処分)。ニワトリの命が軽んじられ、甚大な経済的損失がくり返されることに、いつも気をもんでいる。
飼養されている鶏たちは、卵を産ませる採卵鶏、鶏肉になるブロイラーで、その飼育の在り方は鶏の習性・生態・生理に即した適切な飼育環境が与えられているのはほんのわずかで、特に採卵鶏は可哀そう。本来、鶏は、羽ばたき飛ぶ、走る、止まり木に留まる、砂(泥)浴び、水浴び、昆虫やミミズなどをついばむなどを行う。しかし、我が国の養鶏業者の大半は、これらの行動ができない狭小なバタリーケージに閉じ込めて飼育し、安価な卵や鶏肉を効率よく生産する工場的養鶏である。一方、平飼い鶏は、平らな地面に群れで飼育され、動き回ったり止まり木に留まれるなどできるので、私は、この飼い方に変えてもらいたいと願っている。だが、単位面積当たりでの飼養羽数が多すぎ、過度な蜜飼いなっていることがあり、困ったものだ。
バタリーケージは、鶏の行動を過度に制限する狭小なもので、やっと向きを変えられるだけである。床は金網や簀の子で、採卵鶏用は卵が手前に転がってくるように傾斜している。鶏舎には、このケージが4~6段積み重ねられ超過密となっている。養鶏場によっては、温度調整、換気、採光調整、給餌などが自動化され、更に外気や自然採光が遮断され感染防止目的の密閉型もある。卵をどんどん産ませて生産性を高めるために照明時間の延長や強制換羽などを行い、採卵数が減ったら廃鶏となる。肉用鶏のブロイラーは、成鶏(120日以上)になる前の40~50日程度で肉にされるので柔らかい。
以上のように、バタリーケージは、徹底してニワトリの生理・生態・習性を無視するものなので、日本も加盟している世界動物保健機関WOAH(国際獣疫事務局OIE)は、このケージの使用を禁止し、数羽が入り段差がある改良型バタリーケージを使うことを求めている。
「動物との共生を考える連絡会」と私は、オリンピック・パラリンピックの開催が東京に決まった後、農場動物の福祉にチャンスが来たと思い、バタリーケージの使用禁止を農水省と養鶏業者に求めた。何故なら、国際オリンピック委員会は、選手の食材は安心・安全でなければならないとしており、鶏を含む農場動物の福祉に反する飼養形態での食材は、安心・安全に疑義があるために供されないだろうと考えていたからである。当時農水省は、農場動物の福祉(アニマルウエルフェアと意図的に言い換えた)について検討会を開催したので、私はその議論を傍聴した。我々が求める農場動物(乳牛、肉牛、養豚、採卵鶏、ブロイラー、その他)の福祉とは程遠い内容で、WOAH(OIE)の指針を無視し、最終的に旧態依然のままの飼養形態(工場的畜産)を認める結論で決着した。情けないことに、一般国民は、アニマルウエルフェア(動物福祉)を認知していないから、動物種ごとに検討したことで良とした。我々の願いが、まったく届かず無念で忸怩たる思いを抱いた。
最近の報道で、当時の元農水大臣が、養鶏業者から500万円のみならず合計1,300万円の賄賂を受けていたとあった。養鶏業者からの賄賂が功を奏し、バタリーケージの使用が認められたことに疑念を抱かざるを得ない。それにしても。国際オリンピック委員会に、我が国の食材が安心・安全なものだと、どの様に説明したのだろうか?
さて、繰り返し発生する鳥インフルエンザの流行防止策として、ワクチン投与が考えられるが、ワクチン投与の費用がかさみ卵や鶏肉が高くなるから使わないのだろうか? バタリーケージ使用禁止で、改良型バタリーケージや平飼いにすると費用がかさむがら、WOAH(OIE)のガイドラインに従わないのだろうか? 農場動物福祉の後進性のままでいいのだろうか? 我が国の鶏にもたらす二重の悲劇から解放されるのは、何時だろうか? 残念ながら、我々の力不足を認識せざるを得ない。
今や世界は、One HealthのみならずOne Welfareに向かっているのに・・・

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